色々な患者さん

患者さんとの出会いは、学生の頃の実習に始まります。まだ正式な看護師とも認められていない若くて頼りない学生を、快く引き受けてくださった患者さんの寛大さには敬服の思いでした。そのおかげで看護師になれたと言っても過言ではありません。もちろん学生を嫌う患者さんもいらっしゃいます。ご自分の具合が悪くて入院されているのですから、そっとしておいてほしいのは誰しも本音の部分にあると思います。実習を楽しくするも辛くするも、担当の患者さん次第(あと、担当看護師も・・)だったのを思い出します。そんな愛すべき患者さんとのエピソードをほんのすこしだけ綴ってみます。

肺がんの手術を目前に控えた、60代の男性患者さんを受け持っていたときのことです。口数は少ないけれどニコニコ笑顔の素敵な方で、抜けた歯と、鼻の頭が酔っ払いみたいにいつも赤いのが印象的でした。フラーっと個室からいなくなったかと思うと、戻るたびに煙草の匂いがしていました。術前だからだめですよ、と言っても「はいはい」と笑顔。そして「看護師さんには内緒ね」と私に言うのです。看護計画に禁煙指導を挙げてパンフレットを作り、指導をすると「よくわかりました」と言われましたが、5分後には部屋から出て行き、まさかと思うも戻ると又煙草の匂いが。悩んだ末看護師に相談すると、担当医も看護師も皆喫煙のことは知っていました。注意はしても、半ば容認という感じで見ていたそうです。そして「煙草は、彼にとって家族で、友達で、精神安定剤だからね。」と言われました。この方は情報によれば子供さんがおらず、離婚をされていて身寄りのない方でした。面会にやってくる人はほとんどなく、寂しさや手術・術後の不安を煙草で癒していたのでしょう。「肺がんの術前=禁煙指導」という図式が頭の中にあったのですが、この方にもっと必要なことは他にあったのです。それは胸中の不安を少しでも軽減すること。口数の少ない患者さんに嫌がられはしないか、と気にして訪室する回数も少なく、あえてお話をするための時間を取ろうとしませんでした。学生の自分には何が必要か思い及ばず、患者さんの役には立てませんでした。

無事に手術を受けられ、帰室されて気分はどうですかと尋ねると、「煙草が吸いたいです」と一言。苦笑しながらも、では早く元気にならないと、と言うとにっこりされました。その後はそばにいて色々な話をしました。手術を終えた安堵感からか、こんなに饒舌な方だったのかと思うほど、たくさんのことを話してくれました。本当は奥さんも子供さんも亡くされていて、今は一人身であること。煙草とは10代のころからの付き合いで止める気もないこと、等々。実習が終わるとき、挨拶に行くと「煙草は少し減らすように、努力します」と言ってくれました。患者さんの性格や本音の部分は少し接しただけでは理解し得ません。決め付けずにしっかりと向き合って、全体像からその人に必要なのはどんな援助かと、よく考えるべきだということを教わりました。






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